About the center未来の人類研究センター

理工系大学の中で生まれる
人文社会系の知

私たちの生活に大きな変化をもたらしてきた科学技術は、いま、「人間」の定義そのものを揺さぶりつつあります。
人間が、自分ではなく人工知能の判断にしたがってあらゆる行動を決める日は、そう遠くないかもしれません。
ヒトゲノム編集技術が発展すれば、人間が、自身の進化のプロセスそのものに介入する可能性も見えてきます。
私たちはどこから来て、私たちは何者で、私たちはどこへ行くのか。科学技術のよりよい可能性を引き出すためには、
数十年、数百年先の人類を見据えた現実的かつ本質的な問いを設定し、理工系の最先端の研究と歩調を合わせながら、
科学技術が人間にもたらす変化や守るべき価値、その可能性について多角的に探索する必要があります。
2020年2月、こうした課題に応えるための研究拠点「未来の人類研究センター」が、東京工業大学科学技術創成研究院の中に誕生しました。
理工系大学発の、人文社会系の研究機関です。ここにリベラルアーツ研究教育院の多様な研究者が集結。
リベラルアーツ研究教育院からやってくるメンバーの任期は原則2年なので、センターはまるで呼吸するように、
常に新しい視点を取り込んでは外へと吐き出していきます。
センターはさらに、学内の理工系の研究者や国内外の多様な分野の専門家とも、積極的に連携していきます。
理工系大学のど真ん中で、手と心を動かしながら、人類の未来について考え、発信します。
  • Organization組織

未来の人類研究センターは、リベラルアーツ研究を推進するため、科学技術創成研究院(IIR)の中に、2020年2月に設置された組織です。科学技術創成研究院は、ノーベル賞を受賞した大隅良典栄誉教授が率いる細胞制御工学研究センターなど、東工大が世界に誇るトップクラスの研究チームを集めた組織です。未来の人類研究センターは、こうした最先端の理工系研究と常に共にある人文系の研究センターです。学内クロスアポイントメント制度により、リベラルアーツ研究教育院の教員が、原則2年間、未来の人類研究センターに所属します。
組織
  • Memberメンバー

    • 伊藤亜紗
    • 伊藤亜紗教授

      センター長、芸術

      Profile

      未来の人類研究センターは、文/理、産/学、理論/現場といった壁を超えて、さまざまな知が出会う場です。それはつまり、センターが「非日常」の空間である、ということなのかもしれません。なぜなら人は、自分がその中にどっぷりつかっている視点や評価基準、価値観をいったん離れたときに初めて、異なる知に出会うことができるからです。目先の判断ではなく息の長い思考、ひとつの正解ではなく多様な知恵。「利他」の視点を通して、人類を見つめ直していきたいと思います。
    • 多久和理実
    • 多久和理実講師

      科学史

      Profile

      科学の歴史において一番ワクワクするのは、その時代の常識(パラダイム)を超える理論が登場して、その理論を受け入れていいものかと同時代の科学者たちが必死に実験したり議論したりする様子を眺めること。新時代のパラダイムとなる非常識な理論は、旧時代のパラダイムによって形成された科学者共同体ではなかなか承認されない。だからこそ、科学者共同体なんか無視して、対話すら放棄して、非常識な理論を勝手に展開する利己的な科学者(例:ニュートン)が大好き。未来の人類研究センターでは、利己的な科学者の振る舞いを深く理解するために、利他的な側面を持つ科学者共同体について考えたい。
    • ヒュー・デフェランティ
    • ヒュー・デフェランティ教授

      音楽学、日本音楽史

      Profile

      ある学生から『音楽で現実に戻りたい人なんていますか?!』と聞かれたことがあります。言いたいことはよくわかります。音楽というものは、夢を見るのと同じくらい没入感の高いものであって、まさに私たちを俗世から「連れ出す」ことで、この人生を乗り切る助けになるものなのではないか、と。しかし音楽は「世界の中」に、そして「私たちの身体のうちに」あり、それ自体が圧倒的な現実なのです。たとえAIで作ったとしても、私たちはそれを音のエネルギーとして体験し、それを止めることはできません。音楽から「逃れる」ためには、その場を離れるか、ミュージシャンや楽器を強制的に止めるしかないでしょう。私たちは皆、(音楽という現実に)一緒にいるのです。
    • 河村彩
    • 河村彩准教授

      ロシア文化、近現代美術、表象文化論

      Profile

      私はロシア・ソヴィエトの美術を中心に芸術の研究をしています。芸術作品は鑑賞者がいないと成立しませんが、芸術家は必ずしも鑑賞者を意識することなく自分の想像力や問題意識に基づいて作品を創造します。それにもかかわらず、鑑賞者は良い気分や、時には不快な気分になったりと、作品から強烈な印象を受け取ります。作品、芸術家、鑑賞者のあいだには、想定範囲を超えたコミュニケーションが成立しているといえるでしょう。このような芸術のあり方は、与える人と受け取る人の一方通行を超えた「利他」と深いつながりがあると考えます。「利他」を通じて私自身の芸術に対する考えがいかに広がるのか、楽しみです。
    • 川名 晋史
    • 川名 晋史教授

      国際政治学、安全保障論

      Profile

      米軍基地をめぐるグローバルな政治に関心をもっています。機密指定が解除された米国の外交文書を読むのが普段の仕事です。基地問題はとてもセンシティブです。それもあって、政策論争や特定の価値に対する態度は禁欲的であろうと努めています。一方、ここではひとまず、その存在そのものに対しては批判のない「水」の問題を扱います。せっかくの機会ですから、これまでよりも少しだけ、社会の規範や人々のニーズに踏み込んだ仕事をしてみたいと思います。
    • 髙橋 将記
    • 髙橋 将記准教授

      時間栄養学、個別化栄養学

      Profile

      私の研究領域は、時間栄養学ならびに個別化栄養学です。現在、栄養・食生活を取り巻く環境や課題は多様化しており、個人の生体リズム、生活リズムあるいは環境に合わせた栄養学が求められています。今回、未来の人類研究センターで取り組む「水」は、栄養学とも関わりが強く、環境、生態、生体レベルにおけるどのレベルで捉えるかにより異なる見え方をします。センターでは、水の循環に着目し、水が我々の生活環境や健康に及ぼす影響をミクロからマクロレベルまで多角的に探究したいと考えています。またセンターでのプロジェクトは、人文社会学の研究者と共同で進めていくため、そこで生まれる相互作用も楽しみにしています。
    • 山本 貴光
    • 山本 貴光教授

      水プロジェクトリーダー、学術史・ゲーム学

      Profile

      あれこれの学術、サイエンス(知ること)とアート(つくること)は、どんな歴史を辿っていまのようになったのか。そんなことが気になっています。さまざまな時代や場所で、知識やアイデアが言葉やモノを介して、人から人へ、言語から言語へ、文化から文化へと動き、伝わり、変わってきた様子を眺めていると、学術自体が人間や事物を使いながら生成変化する生き物のように見えてきたりもします。文字の普及以来の五千年にわたる、そんな学術の試行錯誤の経験には、人びとの発想や欲望、数知れぬ失敗とほんのわずかの成功が含まれていて、人類の来し方行く末を占うための手がかりとなるのではないか、なんてことを考えているところです。
    • 蛭田彩人協力研究員(2021.1 〜)

      PROFILE
  • OB、OG

    • 中島岳志
    • 中島岳志教授 (2020.2 〜2022.3)

      初代利他プロジェクトリーダー、政治学

      Profile

      繰り返される自己責任論。生活保護受給者へのバッシング。欧米社会では移民への排他的姿勢が目立つ。人々から寛容さが失われ、少ないパイの奪い合いが進行する中、未来の人類に「利他」という精神は意味を持つのだろうか。貧富の格差を増大させるグローバル資本主義に対して、「贈与」のような別の交換システムは機能するのだろうか。未来の人類研究センターでは、人文科学・社会科学の英知を結集し、理工系の知と対話しながら、新しい利他学を構築したい。
    • 若松英輔
    • 若松英輔教授 (2020.2 〜2022.3)

      人間文化論

      Profile

      「利他」の行為は、深度が深まるほど、「利他的」には映らなくなる傾向があるようです。また、「利他」の行為はしばしば、行為者と受容者が意識しないところでも生起しています。たとえば今、世界が気候変動の問題に注目していますが、この運動に参与することは同時代ばかりか、来たる世代の人々にとって大きな「利他」になり得ます。さまざまな分野を架橋しながら、「利他学」の可能性をめぐって考えてみたいと思います。
    • 磯﨑憲一郎
    • 磯﨑憲一郎教授 (2020.2 〜2022.3)

      文学

      Profile

      小説家の仕事とは、一般に考えられているような、作者のメッセージを作品に込めて読者に伝えることでも、現代社会が抱える課題を物語という形で炙り出してみせることでもなく、未知の領域に分け入るように一文一文書き進むことによって、小説という形式を更新し、小説の歴史・系譜に奉仕することなのだ。つまり、小説とは自己実現ではない、小説によって実現し、光を浴びて輝くのは、作者という個人ではなく、世界、外界の側なのだ。
    • 國分功一郎
    • 國分功一郎特定准教授 (2020.2 〜2022.3)

      哲学

      Profile

      利他は「利する」と「他者」から成り立っています。哲学には他者の概念について豊かな蓄積がありますが、私はいま、その概念が静かに、しかし大きく揺さぶられているのを感じています。「異なる」ということばかりが強調されてきた他者なるものを、むしろ、「似ている」者として考える必要に哲学が気づきつつあるのです。この大きな概念的変動は、既に分かり切ったことと思える「利する」という行為の意味をも変えてしまうことでしょう。哲学の中の静かな地殻変動に応える利他学の可能性に、私も静かな興奮を覚えています。
    • 山崎太郎
    • 山崎太郎教授 (2021.4 〜 2022.3)

      ドイツオペラ/ドイツ文学

      Profile

      他者の運命に深く関わるとき、あるいは芸術でもスポーツでもある対象に夢中になるとき、意識から自分という存在がふと消えることがある。それが大きな意味で快く感じられるのは、自分が外界に向かって開かれ、外界が自分のうちに流れ込んでくる、その双方向的で風通しのよい運動が人を自我の息苦しさから解き放つからだろう。その意味で「利他」とは何より自分自身を救おうとする心の志向にほかならず、建前論的な行動指針や道徳規範を超えて、人間の本性に深く根ざしているはずだ。人や本との対話を通し、こうした「利他」のさまざまな現われに思いをめぐらしたい。
    • 木内久美子
    • 木内久美子准教授 (2021.4〜2023.3)

      比較文学

      Profile

      他者を理解しようとすることは、どこか翻訳行為に似ています。ある言語で書かれた原文の字句や意味を、それになるべく忠実に理解し別の言語に移しかえるのが翻訳です。「忠実に」という語には、原文という他者への寄与が含意されているようにも思えます。ですが、これは極めて困難なものです。言語的差異のみならず文化や社会的なコンテクストの差異もあり、翻訳者自身のバイアスも手伝って、誤解や誤読は避けがたいものなのです。とはいえ理解の可能性は、他者に接近・接触して初めて生まれうるものでもあります。試行のプロセスとしての他者理解――利他はこのなかで、事後的にしか見いだされえない(あるいは多くの場合、見いだされぬままの)、一種の(そして無数の可能性としての)セレンディピティなのではないでしょうか。
    • 北村匡平
    • 北村匡平准教授 (2021.4〜2023.3)

      表象文化論

      Profile

      映像というテクノロジーはこれまで「利他」をどのように映し出してきただろう。映像表現という営みは、非言語的な力によって観る者に訴えかける、日常の振る舞いとは異なるフィクションである。カメラの眼を媒介することで、時にそれは観る者の記憶と共鳴し、日常生活では見えない、あるいは気づけない行為や世界を再帰的に認識させる。あるいは私たちの身の周りにあるスマートフォンやSNS、ソーシャルVRプラットフォームなどの媒介性〔mediation〕は、いかに「利他」と関係するだろうか。未来の人類研究センターでは、映像/メディア技術から見る利他学の可能性を探究したい。
デザイン:中村 文信(SEWI)
WEB:渡利 祥太(ケアン)
写真:石川 直樹/五十嵐 絢哉/荻野勤(TOMART)
映像:長谷川 和俊(ホオズキ舎)/有元真一(ぎなたよみ)
  • Event & Lab Spaceイベント&ラボスペース

東京工業大学の本館と芝生斜面を臨む西9号館の最上階(E棟9階901)に、未来の人類研究センターのイベントと研究のためのスペースがあります。外部のゲストを招いて年18回程度開催される利他研究会のほか、小規模のイベントはここで開かれます。人々が集い、語り、作る場です。
*一般への開放はイベント時のみです。未来の人類研究センターのオフィスではありませんのでご注意ください。お問い合わせは、Contactページよりお願いします。
*利他研究会は基本的にクローズドで行い、一般には公開しておりません。ただし、企業の皆様向けに、研究会にご参加いただくことのできる特別プランを用意しております。詳細は「企業の皆様へ」ページをご覧ください。